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増え続ける銀行預金

銀行預金が増え続けているわけ

日本では、長引く超低金利にもかかわらず銀行の預金残高が増え続けていると、1月25日の日本経済新聞は報じています。

 日本の預金残高は、現在、年間10兆円増のペースで過去最高を更新しており、2015年11月末時点で677兆円に達していると記事はしています。日銀の調べによると、増加規模はこの20年で約230兆円に達しており、なおかつ増加額の実に9割が個人の預金(の増加)によるものだということです。

 人口減少期に入った日本では、リーマン・ショック以降続く厳しい経済環境のもと、若者や高齢者の貧困問題などが懸念されています。実際、定期預金でもほとんど利息が付かない超低金利が続いており、一部では「マイナス金利」さえ囁かれている状況にあって、なぜ今個人の預金額が増え続けているのでしょうか。

 記事は、疑問を解くカギは世代別の預金額にあると指摘しています。

 直近5年間(2009~14)の世帯当たり預金額の増減をみると、全体の半数を占める60歳以上の高齢世帯の銀行預金は平均1351万円で、5年間で約1%、7万円ほど増加しているということです。一方、60歳未満の現役世代の預金額は625万円で、同じ5年間で約2%、10万円ほど減少しており、特に40代の減少幅が大きいとしています。

 NTTデータ経営研究所会長の山本謙三氏は、高齢者の貯蓄が伸びている最大の原因を「シニア層が『長生きリスク』にさらされているからだ」と、ある意味「あっさり」と答えています。

 日本人の平均寿命は男性80.5歳、女性86.8歳と、5年ごとに1歳ずつ延びています。そのため、高齢者も老後の生活費や医療費がどれだけ必要なのかが分からず、節約して預金をためているのではないかということです。

 加えて山本氏は、長寿化が進み相続の受取人の高齢化が進んでいることを、もう一つの理由として挙げています。

 現在では50~60代の「老老相続」が中心であり、80代の親の資産を50~60代の子供が相続するのが当たり前となっている。そして、そこに「預金志向の強い高齢世代の間に金融資産が滞留」していく構図が生まれているということです。

 高齢世代のマネーが預金に流れていることは、リスク資産への投資動向からも裏付けられると記事はしています。

 有価証券保有残高を世代別にみると、09~14年の5年間で60歳未満の世帯が平均103万円で約3%増と3万円弱増えたのに対し、60歳以上は337万円で0.2%減と約8千円減少している。アベノミクスを背景に株高が続いてきたにもかかわらず、高齢世帯は「投資から貯蓄へ」という傾向を一層強めているということです。

 このような現状が生まれている理由について、記事は、現在の高齢者はバブルの崩壊以降もアジア通貨危機や円高不況、リーマン・ショックなどを経験してきた世代であり、「投資」に対する不信感を払しょくできないからだと説明しています。

 確かに高齢世代が「もう投資はこりごり」だと考え、大切な老後資金を無理せず安全に運用したいと銀行預金を選択するのも無理のない話かもしれません。

 しかし、記事も言うように、デフレ脱却を前に足踏みする日本経済を考えれば、資金が銀行預金に集まれば集まるほど、インフレ期待から投資や消費が増えて経済が活性化するという日銀シナリオへの大きな障壁になるのもまた事実です。

 さて、報道によれば、塩崎厚生労働大臣は所得が低い高齢者に3万円を配る「臨時福祉給付金」について、今年上半期の消費を下支えするため6月までに全対象者への給付を終える方針を明らかにしたということです。

 臨時福祉給付金を含む2015年度補正予算案は1月20日の参議院本会議において可決、成立し、総額3兆3213億円の公金が65歳以上で住民税を課税されていない低所得の約1100万人に対して給付されることが決まりました。

 一部野党から「バラ撒き」との批判もあったこの給付金ですが、1月19日の参議院予算委員会では、民主党の斎藤嘉隆議員が「給付金を消費に回す傾向が強い高齢者に配ることで景気を下支えする」とする政府答弁を疑問視し、(消費性向に関する)子育て世帯との比較を示すよう迫ったと朝日新聞は伝えています。

 記事によれば、答弁に立った加藤勝信1億総活躍担当大臣は、2009年に実施された「定額給付金」では子育て世代が受給額の37%を消費に回したのに対し、高齢者世帯はより多い40%だったと説明し理解を求めたということです。

 一方、質問者の斎藤氏は定額給付金のうち実際には25%しか消費に回らなかった点を指摘し、臨時福祉給付金の経済効果に疑問を呈したとしています。

 確かに最近の銀行預金残高の推移を見る限り、将来への不安を持った高齢者への3兆円を超える公費の一律給付が、ストレートに消費に繋がっていくか否かについては疑問の余地があるでしょう。

 高齢者は、なぜ貯め込むばかりでお金を使おうとしないのか。

 「先が見えないのだから当面貯金しておくしかない」と考える高齢世帯の消費を十分に活発化させるためには、何を置いても「楽観的な将来」という大きなピースが欠けていることを改めて感じさせられたところです。






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